2001年9月28日
釣行記 〜奇跡の川〜

 

目的の川へ向かう途中雨が降り出した。

雨は次第に強くなり土砂降りになる。

嫌な予感がした。

目的の川が近づく頃には夜も明けはじめ、時々うっすらと見える小河川は全て濁流となっていた。

雨はすでに小降りになっていたが目的の川も濁っているのは間違いなかった。

 

最後の峠を超え川が見えはじめた。

...やはり濁っている。

しかし濁流とまでは化していないのが救いかも?

この川は濁りだすのも早いが濁りが取れるのも早い。

僅かな可能性を信じて僕はそのまま上流へ車を走らせた。

数km上っただろうか?

木々の間から見えた川はかなり濁りも取れてクリアな流れになっていた。

思った通り!

嬉しくなった僕はもう少し上流に入ろうとさらに車を走らせる。

しかし...

次に川が見えた時、僕は愕然となる。

最初に見た下流の濁りとは明らかに違うチョコレート色をした粘度の高そうな流れがそこにあった。

遠くの堰堤では濁流が途切れ途切れに流れ落ちている。

不自然だ...

少しの間を要したが僕はそれが土石流である事に気づく。

そして同時に、この川に遥々来た事が報われないまま終わるのでは?という不安に襲われた。

すぐに引き返し先ほどクリアだった区間に戻ると、まだ濁流は押し寄せていないみたいだった。

少しだけやってみようか?とも思ったがもうすぐ来るであろう土石流の事を考えるとかなり危険な行為だ。

たぶん昼過ぎには濁りも取れるはず...

僕は奇跡を信じてみようと思った。

 

となりには、この川と同じくらい好きな川がある。

その川も以前の豪雨の後は全く生命反応がなかった。

原因を探る為、石を何度も裏返してみたが川虫は全然いなかった。

でもこの川が復活しているのなら、あの川も復活しているかも?

僕はすぐに移動を開始した。

30分ほどで到着し川を見ると、やはり少し濁りがあったが躊躇せず上流を目指す。

思った通り、ものの数分走っただけで流れは透明になり美しい流れが僕を迎えてくれた。

実績のあるポイントには入らず、今回は今まで入った事の無い区間でやってみる事にする。

 

とある支流の橋。

上から覗くと何処までも透き通った流れは石の状態も良好で僕は気持ちの高揚を押えきれなかった。

すぐに支度をし川に降りる。

反応は何度か有ったがフッキングミスの連続。

それでもこの川でロッドを振るのは最高の気分で僕は嬉しくてたまらなかった。

そして本日最初のイワナに出会う。

その後も数度、反応があったが他の場所も気になるのでポイントを移動する事にした。

 

その後は2箇所ほど別の場所に入ってみたが反応は遠く気づくと昼になっていた。

夜通し走ってきたのでここで少し仮眠を取ろうと最初の川に戻る。

途中Hardyさんから激励のTELをいただき、さらに最悪の場合の逃げ場も教えていただいた。

いつもHardyさんには貴重な情報を教えていただいたり、勇気づけられる事が多い。(Hardyさん、ありがとうございます!)

今回も奇跡が起こらなければ、その川に行ってみようと思った。

 

いよいよ川が近づき恐る恐る流れを見ると少し濁り気味だがかなり回復していた。

「よし!なんとかなりそうだ」

あの濁流の後で釣れるかどうかは未知数、むしろ釣れないと思うのが自然だろう。

しかし、僕は奇跡を信じてみたかった。

あの災害から復活したという奇跡、そして今日の濁流後の奇跡を信じてみたかった。

迷う事は無い、それを確かめる為にここへ来たのだから...

 

僕は一番入ってみたかったポイントまで移動すると昼食を取り眠りについた。

 

午後4時、携帯の目覚ましで起きると、さっそく車を降り橋から川を覗きこんでみる。

川の流れは思った通りクリアになっていた。

すぐに準備をし川に降りる。

大好きだった流れがそこにあった。

埋まっていた石も回復し、今日の濁流の面影を感じさせない力強い流れは僕を勇気づける。

僕は夢中になって釣り上った。

反応はやはり遠かったが必ず魚信はあると信じていた。

次第に暗くなる中、焦りを感じ始めた頃、石裏のポイントで初の魚信!

ラインが弛んでいたので上手く合わせられなかったが、なんとかフッキング!

そして、なお弛んだラインをかばうように自分で後ずさりしながら寄せにかかった。

その引きから、なかなかの良型だと解かる。

途中、手前の石でラインの先が見えなくなったが強引に下流に寄せようとした時、フッとラインが軽くなった。

痛恨のバラシ...

やはりアワセが弱かったのだろう...

それに強引過ぎたかもしれない。

僕は少し悔やんだ。

 

これが最初で最後だった。

僕はなんとか魚の顔が見たくて、フライが見えないほど暗くなっても諦めきれずにいた。

その時、

「ガシャーン!!」という物凄い音が聞こえた。

けたたましいその音は、すっかり暗くなった溪に何度も鳴り響く。

そして僕は橋の上に信じられない光景を見つけた。

橋の上には車が止まっていて誰かが橋の上から何かを投げ捨てているのだ!

僕の目の前を次々に投げ捨てられたゴミが流されていく。

どちらかといえば内向的で、そのような事に目をつむりがちな僕だが、その光景にはさすがに怒りを押えることは出来なかった。

まだ投げつづけている...

ぁぁぁあ!!!

渾身の力をこめて腹の底から怒鳴った。

たぶん誰もいないと思っていたのだろう。

彼は慌てて車に乗り込むと逃げるように走り去っていった。

僕の目の前を沢山のビニール袋やペットボトルが流れていく。

こんな光景は見たくなかった。

僕は次々に流されていくゴミを見つめ怒りと悲しみのやり場のないまま釣りを終えた。

 

橋のすぐ近くでは「ゴミは持ち帰りましょう」と電工掲示板に表示されていた。

「関東近郊の有名な川では住民の中にゴミを川に投げ捨てる人がいる」と言う話はかつて聞いた事が有る。

しかし、それはその地方独特の慣習なのかと思っていた。

(だからと言って、それを許す事はできないが...)

大好きなこの川でもそれが行われていたと言う事実に僕はショックだった。

傍らでは彼も見たであろう電光掲示板の光がしきりに点滅を繰り返し訴え続けている。

僕にはそれが寂しく映った。

 

色々な思いが交差しながら僕はその場所を後にした。

釣果は無いに等しかったが、厳しい自然と心無い人の脅威にさらされながらも力強く生きている魚たちを確認できた事は素直に喜びたかった。

奇跡の川...

きっと信じれば川は応えてくれるのかもしれない。

Akaさんの言葉を思い出した。

 

 

川の下流には温泉があり、そこで疲れを癒した僕はAkaさんの待つ次の目的地に向かった。

やがて人気の無い峠道に入っていく。

どんどん高度を上げ気づくと満天の星空が道しるべのように輝いて見えた。

峠をひたすら上りやっと越えると今度は、ぽつぽつと見える街灯が夕闇の寂しさを和らげてくれる。

待ち合わせの木の橋に到着するとAkaさんの車が見えた。

ホッとした僕は約束の時間に目覚ましをセットすると寝袋に潜り込み明日の釣りを思い描きながら深い眠りについた。

 

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